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【先輩起業家インタビュー】

百姓暮らしに憧れ、都会から自然溢れる南三陸町へ。
藍の栽培・商品開発×古民家宿を幅広く手がける一児の母

でんでんむしカンパニー 中村未來さん

こんにちは!株式会社ESCCAインターン生のねんねんです。

 ここまで、起業についてのあれこれを皆さんにシェアしてきました。一連の記事を通して、少しでも皆さんに「地方起業っていいな」、「南三陸町って、可能性が沢山眠ってて魅力的な場所だな」と思ってもらえると嬉しいです!…ただ、やっぱり実際に起業した人の話を聞かないと、なかなか行動に起こせないし、イメージが湧きづらいですよね。

 そこで!そんな皆さんの声に応えるべく、今回私たちは、南三陸町に移住し、活躍なさっている起業家の方3名にインタビューをしてきました。先輩起業家の経験談が、あなたの起業のヒントになるかも?


 まず1人目は、でんでんむしカンパニー 中村未來さんです!

 町の中心部から車を走らせること、約15分。狭い山道を通りながらどんどん奥へと突き進んでいくと、山間でオシャレな古民家を発見!

 実はここ、「みんなでつくった小さな宿のん」という、築100年越えの古民家をリノベーションした民泊施設なのです。中に入ると、大きなガラス窓から映る景色と、あたたかい木造家具の内装に思わず見とれてしまいます。

 なんとここは、全国から1000名もの方が集まって一緒につくった宿なのだそう!入口付近には、藍茶や藍染マスクなど、藍でつくった素敵な商品がいくつも並んでいます。そう、ここではお宿だけでなく、藍の栽培や商品開発までも手がけているのです。今回は、そんな素敵な場所を経営されている、合同会社でんでんむしカンパニーの代表社員・中村未來さんにお話を伺いました!

目次

先輩起業家プロフィール
中村 未來 さん

1987年、東京都生まれ。 2011年の東日本大震災で被災地にボランティアとして赴き、東北との接点が生まれる。その後、2012年10月に復興応援隊として南三陸町観光協会に就職。任期中から古民家改修や藍の栽培に取り組み始め、2016年からは地域おこし協力隊としても活動を開始した。協力隊の活動を卒業後も南三陸町に残り、2021年7月に「小さな宿のん」をオープン。現在も、藍と民泊事業を南三陸の払川集落にて展開中。

南三陸町とのつながりは?

 震災後、復興ボランティアとしてこの町に来た事が、南三陸町とつながる最初のきっかけとなりました。私が南三陸町へはじめて訪れたのは、2012年の夏。その頃はまだ復興が進んでおらず、人が住んでいた形跡もないぐらい、ものさびしい状況でした。そんな中、被災された方々と言葉を交わす内に、皆さんが「またこの地で暮らしたい」と仰っているのを聞き、当たり前ですが、ここにも「暮らし」があるのだと気付いたのです。そこで、私も皆さんの暮らしを戻すお手伝いをしたいと思いました。ただ、本格的にお手伝いをするためには、長期的にこの土地に関わっていかなければなりません。その頃は大阪の設計会社で仕事をしていたのですが、辞めてこちらへ移住することを決意しました。

 移住を決意した理由は、もう一つあります。南三陸の方々の「百姓暮らし」に惹かれたのです。ここでは農家さんが漁をしたり、お店を出したりと、様々な生きる術をもっています。そんな、どんな時代になろうとも、ウェイトを変えながら幅広く生活できる「百姓」という存在に、自分も憧れを抱いたのです。

 気づけばここに来てもう10年。私も今は宿を経営しながら、畑で藍や稲など、様々なものを自分の手で育てられるようになりました。

手に持っているのは藍の花。この花で藍茶をつくるそうです!

南三陸町で起業しようと思った理由は?

 実は、「起業しよう!」と意気込んだことは今も含めてありません。どちらかというと、「自分の理想の暮らしを追い求めた先に、いまの状態にたどり着いた」ようなイメージです。今の日本は、週休二日で働くのが一般的になっていますよね。ですが、その生活が合わない方だっていると思うのです。一方で、南三陸での暮らしは、自然の力を借りながら、ゆったりと生活できる魅力があります。そこで、都会での生き方が合わないと感じる方に、「こういう選択肢もあるよ」と、暮らし方のヒントを提示できればと思いました。それが、私が事業を興したきっかけです。

 会社名の「でんでんむしカンパニー」にも、実は色々な意味をもたせています。「でんでんむし」は、かたつむりのことなのですが、私もこの地を訪れた皆さんに、かたつむりのようなゆったりとした暮らしを楽しんで欲しいと願い、こう名付けました。また、実はでんでんむしは藍の天敵、藍を食べるんです。けれどそれが「自然」というもの。その自然とともに生きていく、という意味を込めて、あえてこの名前にしています。

「ゆったりと、自然と共存した暮らしを」

 この思いが、出会った方一人ひとりにでんでんと伝わっていけたら嬉しいです。

起業する中で一番大変だったことは?

 でんでんむしカンパニーの社員は、今のところ私一人。

 日頃から両親やスタッフさん3名が手伝ってくれていますが、経理などの日常業務をこなすのは、基本私一人です。また、いまは3才の娘とともに生活しており、仕事と子育てを両立させたい気持ちがあります。そう考えると、とにかく時間が足りない!ですので、限られた時間と、自分のエネルギーをどう分配していくか、どこを妥協していくべきなのか、でかなり悩みました。

 ただ、時間が足りないからと、せわしなく生きるのはまた違う気がしています。あくまで、自分のペースを大事にしながら、日々の暮らしを丁寧に紡いでいける、その方法をいまも模索中です。

今後の展望は?

 私はいま、藍と民泊、二つの分野を進めていますが、それぞれに目指したい方向があります。まず藍の方は、今後食の展開を進めていきたいと考えています。実は藍って、とても体にいいんです。防虫効果や解熱・解毒、殺菌など、様々な効果があって、古くから万能の薬草として親しまれてきました。その藍を、お茶にしたり、粉末にしてパンに練りこんだりと、色々とアイデアを形にしたいと思っています。また、地元のお料理屋さんと連携して、大葉の代わりに藍の葉を使っていただけないかも考えています。藍の食展開が進めば、今後宿に泊まられるお客様にも、藍料理をお出しできるかもしれません。

 古民家宿の方は、里山でのゆったりとした暮らしを更に感じていただける、そんな宿にしていきたいです。ここでは、家具や食器を木材で統一するなど、プラスチックを使わない、環境に優しい生活を送っています。そんな、極力環境に負荷がかからない暮らし方を、訪れた皆様にも体験していただきたいと思います。また、私は大学時代に建築学を、卒業してからは設計会社で働いていましたので、今後はその知識と経験を生かして、お客様にライフスタイルの提案もしていきたいです。

改装前の古民家の写真を手に、5年以上かけて創り上げた宿について語る未來さん

地方起業を目指す方々へのメッセージ

これは私の経験談になるのですが、「地方に移住したい!」と考えている方は、実際にそこに足を運んで、一年お試しで住んでみるのがおすすめです。ポイントは、「その土地の四季を見てみること」。

 例えば、夏に移住したい地方へ訪れ、そこの環境にほれ込んだとしても、冬にはその環境ががらりと変わって、「思ってたのとちがった!」という状況に陥ることも。そんなミスマッチ状態を防ぐためにも、一度住みたい地域の四季を体験してみるといいですね。

 あとはとにかく、「直感を信じる」ことです。訪れてみた先で、少しでも「ん?」と違和感を覚えたら要注意。たとえそこに移住を決めたとしても、数年後には縁が途切れる可能性も。ですので、本当に自分が「心地いい」と納得した地域を選ぶことが大事だと、私は思います。

INTERN’S SPEAK!

 今回、私たちは未來さんの宿と藍畑にお邪魔させていただきました。なんとここの藍は、町の生ごみなどの廃棄物を利用してつくった、バイオ液肥で育てたのだそう。まさに、循環型農業!収穫後の藍は、室温60度以上のビニールハウスに持ち込んで乾燥させるみたいなのですが、これを全て一人でこなしていると聞いて、もう驚きです!

 百の生きる術を使いこなす「百姓暮らし」を目指しているという未來さんですが、お話を伺っているなかで、「このお方はもう立派な百姓だ…」と尊敬の念を抱いた私。

 お恥ずかしながら、今回の取材で私がはじめて「百姓」という言葉を聞いたとき、脳裏に浮かんだのは「百姓一揆」や「庶民」といった、長い歴史のなかで搾取されつづけてきた貧しい人々の姿でした。しかし、未來さんの「百姓=百の術をもち、どんな時代でも臨機応変に生きていける者」という解釈を聞いて、自分の中の負のイメージが一掃された気がします。

 考えてみれば、私はいままで、まともな生きる術を習得してきていません。かろうじて料理はできるので、「一姓」ぐらいでしょうか…

 ですが幸い、今回の取材ではインターン生みんなで、未來さんに「麦の脱穀」を教わりました!こちらの麦も、未來さんの手で育てたもの。脱穀した小麦は食料へ、ほかの部分は敷き藁と、余すことなく利用できるようです。脱穀機にはじめて触れたのですが、これで私も、少しは「二姓」へと近づけたのでしょうか?

 「百姓」へたどり着く道は、まだまだ先のようです…!

この記事のライター / ねんねん

台湾出身。大学在学中に南三陸町を訪れ、「こんなに台湾に友好的な場所があるんだ!」と感動し再訪を決意。現在は日本の大学院に在籍しながら、株式会社ESCCAのインターン生として南三陸町に滞在中。
いつか起業したいと思いつつも、なかなか行動に起こせないのが悩み。